少女は天秤棒を肩に食い込み、その痛みに耐えつつも、重い汚水を桶に満たし、歩いていました。 その日も、その前の日も、ずっと前の日も思わず汚水を頭からかぶってしまいたくなる様な暑い日でした。 もっとも、汚水を頭からかぶってしまったらすぐに病気になり、家族を養うことはできないでしょう。 辛い仕事です。大の大人でさえも、嫌がる仕事なのですから。 それでも、少女は忙しさのあまりに勉強も遊ぶ事もできない汚水運びを、ただただ続ける以外ないのでした。 どんなに嫌で辛くとも、来る日も来る日も汚い水を運んで川に捨ててゆきます。 少女が働ける物の中では、まだこれが良い待遇なのでした。 川は、どんなに汚水を投げ込んでも、綺麗なままです。 たとえ、汚い色の水が、わっと水を濁らせそれがだんだん流されつつ薄まってゆき、最後には変わらない透明な水が現れます。 それを見て、他の子どもたちと違う汚い自分が嫌になってきました。みんな綺麗な服を着て、かわいい顔を太陽の下、光を浴びる事ができるのです。 汚水運びの少女は、嫌な臭いが体に取れることなく染み付き取れることがありませんでした。顔も服も汚れ、太陽の下では汚水はとんでもなく臭く、光を浴びる太陽の下では嫌な記憶しかありませんでした。 泣きたくもなります。 でも、目の前にあるのは汚水だけです。 すっくと立ち上がり、残っていた汚水桶の汚い水を捨てようとした時です。 汚水が、独りでに動き始めました。 汚水が、生きているかのようでした。 動き始めた汚水は、手を伸ばした少女の手を滴で汚しました。 そして、後ずさりした少女が見た桶からは、汚水でできた人の手が伸びていたのです。 それは、手を握ったり開いたり、指を何の障害も無く動かします。 しばらくして手が引っ込み、人型の上半身が桶の水面から出現しました。汚水の、人の体が出てきたのです。 汚水桶の人は、顔はのっぺらぼうでどこに顔があるのかわかりませんでしたが、顔を少女に向けるような仕草をすると、目鼻ができてきました。 汚水でできた少女ができました。 その目鼻は、間違いなく汚水運びの少女の物です。 その汚水でできた少女は、汚水桶から立ち上がり、汚水運びの少女の前で立ち止まり、微笑みかけて、川へ飛びこびました。 桶には、汚水は残っていませんでした。 川は綺麗な水を湛えています。 もう、汚水の色はとっくに流し去っていました。 汚水でできた少女を、流し終えていました。 少女はふと、いつも汚水を捨てているあたりには、草がやけに生えていることに気づきました。 汚水は、あの草を育んだのでしょうか。 なら、あの汚水でできた少女は、何か命を育む事があるのでしょうか。 そんな事を考えながら、少女はまた汚水を運びに戻っていきました。 この汚水も、自分の姿を取る事があるのだろうかと思いながら、汚水を捨てていきました。 |